公益財団法人 鹿島美術財団

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  2. 泉 武夫 氏 インタビュー

素材の時代的変化を確信

髙岸 :

ボストンには奈良時代の「法華堂根本曼陀羅」から江戸時代の仏画まで、バランスよく、偏りなく集まっていますね。

泉 :

やっぱり廃仏毀釈のときに蒐集が始まっているということと、日本の文化に対する考え方の揺らぎがあった時代背景の中で放出された作品をどんどん入手していったので、偏りのないといいましょうか、満遍なく年代がつながるようなコレクションが出来上がったのだろうと思うんです。

髙岸 :

いわゆる擬古作、問題作というのは、どのようなものなのでしょうか。

泉 :

作品のもっている様式的な特徴と、素材の年代が合わないんですよ。落ち着きの悪さというんでしょうか。そういうところからよくよく眺めてみると、現時点では擬古作というところに持っていくしかないのですが、研究が進んで再評価があるかもしれない。

髙岸 :

『調査図録』の小さなモノクロ写真だけから判断すると、よさそうに見えますね。適度に傷みや古色もありそうで。

泉 :

そうなんです。古色に関しては、何とも言いようがないですよね。騙そうとしたのか、単に風格をつけたいと思ってやっただけなのか。

髙岸 :

一見すると、鎌倉時代ぐらいでよいように見えますね。

泉 :

そうそう。確かに。

髙岸 :

これだけ大量の仏画を3ヵ月ぐらいでまとめて調査するというのは、泉先生にとっても経験がなかったのではないでしょうか。

泉 :

初体験ですね。ですから、このときはあまり意識していなかったけれども、年代が下降するに従って、素材もつなぎ目なく、少しずつ変化するということを自分なりに確信できたという体験でした。日本の美術館では、ここまでの量はないですからね。平安から江戸まで満遍なく作品があることで、素材観についての認識も得られたと思います。

髙岸 :

京博にいらっしゃった頃は寺社の悉皆調査を毎年やっておられて、蔵を開けると雑多なものが出てきたと思いますが、ボストンの仏画との関係もお考えになりましたか。

泉 :

直接的に意識して考えたことはないのですが、これだけの数量で時代をフルに観察できたというのが、やはり自分の中の尺度の形成にかなり役立っていることは間違いないです。悉皆調査のときに出てくるような仏画は中世・近世のものが多いので、そういうものを判断するときに、この鹿島調査で得た経験はものすごく有益だったということは言えます。

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