公益財団法人 鹿島美術財団

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  2. 辻 惟雄 氏 インタビュー

日本人のオリジナリティーを見つけるため、外の世界を知ろう

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今回、『調査図録』が出版されて鹿島調査に一区切りがつきましたが、将来に期待されることはありますか。

辻 :

これまで日本でボストン美術館の所蔵品の展覧会を何度もしているけれども、アンさんが一生懸命頑張っても、結局は名品主義になるでしょう。やはり絵巻などが中心になって、いつも同じ名品だけになってしまうんだよね。つまり鹿島調査の成果というものが一般には全く認められていないわけで、それを認めさせるためには、この調査によって見出された作品を集めた展覧会をしてほしい。それだけでは地味になるから、客寄せになる有名なものを2、3点くらい入れて。それと併せて、このインタビューを通じて得られた「調査担当者が選ぶ名品」をずらっと並べた、「鹿島調査の成果展」というものを是非やってもらいたいと思う。

髙岸 :

辻先生が「ボストン美術館の狩野派」といったテーマで日本で展覧会をやりたいと思っていたけれどもうまくいかなかった、と河野元昭先生のインタビューにもありましたね。日本未公開の江戸狩野の逸品を展示したかったけれども、メディアやスポンサーの反応がよくなかったそうで。

辻 :

それはあまり反応はよくないでしょう。お金目的だけでやったって駄目なので、あまり大きな美術館じゃないほうがいいと思う。小さな感じの展示室で、珍しいものが並ぶという展覧会はどうでしょうか。

髙岸 :

それは我々の世代で。竹崎君もいますから。

辻 :

よろしくお願いします。これはやりがいのあることだね。

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最後に、日本や海外で日本美術を研究する若手研究者へのメッセージや、将来に期待したいことなど、一言いただけますか。

辻 :

国内でいうと、美術史を専攻して日本美術を選ぶ理由として語学が不得手だから、という人がいるけれども逆なんだよね。本当は、日本美術をやっている研究者は英語が絶対必要なんだよ。それから、やはり大物を狙えということだね。今はどちらかというと、これまで誰もやっていないところを選ぶ人が多い。もともとはアメリカの学生の傾向だったんだけれども、どうも最近は日本のほうにも移ってきている。マイナーな作家の詳しい伝記研究や作品発掘に興味が移るというのは当然のなりゆきかもしれないけれども、そちらのほうもやりながら、同時に核心にあたるような、オリジンにあたるような大きなものを、大きな視野で研究してほしい。
 また、日本だけを見るのではなく、日本美術のもとになった中国の美術との関係といった大きな見方をしてほしい。私もこの歳になると、もう少し大きな見方をしたかったなと思うんですね。自分の専門のところだけ詳しくて、ほかは何も分からないというのはやはり寂しくなりますよ。「美術に国境なし」というのはフェノロサの言葉だけれども、それを本当にやったら世界美術史になってしまって区切りがつかないから、どこかで線を引かなければいけない。しかし、日本と中国は深い関係にあるので、もっとやっていただきたいと思いますね。
 今は完全に専門が分かれてしまっているでしょう。だが、関係史みたいな新しい研究ジャンルがどんどん出てきているし。我々が目指すのは、日本人のアイデンティティー、オリジナリティーというものがあるとすれば、それを見つけたいということだけれども、そのためにはまず外を知らなければいけないんですよね。

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