公益財団法人 鹿島美術財団

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  2. 浅野 秀剛 氏 インタビュー

データベース公開と国際共同研究の時代へ

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最後に国際交流の未来についてお聞かせください。特に浮世絵研究の分野で、将来の展望などいかがでしょうか。

浅野 :

現在、浮世絵や江戸時代の作品がどこにどの程度あるかというのが次第に集積されつつあるので、世界中の研究者が共同で研究するという方向になっていくと思います。僕は過渡期ですけれども、以前は作品のなかから都合のいい部分だけを取り上げて論文を書くということがしばしば行われてきました。これからは全体を俯瞰した上で論ずることが必要です。そのためには、情報の蓄積がベースになければいけない。浮世絵は数が多いのでこれまでは大変でしたが、これからはデータベースの時代ですから、その上に論文を組み立てることになると思います。

髙岸 :

世界屈指のクオリティを誇るボストンの浮世絵を調査され、その成果が出版や美術館ホームページで公開が進む意義についてはいかがでしょうか。

浅野 :

浮世絵に限らず、コレクション規模として最大のものを持っているボストン美術館に対して、鹿島美術財団の協力の下に悉皆調査ができたわけですから、他の美術館でも同じように調査をして、公開していくということが求められるんだと思います。特に日本の美術館・博物館は、所蔵作品のデータベースの作成や公開という最も地味な部分にあまり力を入れていない。お金がない、人が足りないということもありますが、美術館・博物館活動の基本だと思いますので、もう少し重視されなければいけないと思います。

髙岸 :

鹿島のプロジェクトの面白いところは、ボストン美術館の学芸員だけで調査するのではなく、外部から各分野の第一線の先生方が訪れたという点にあります。国内では難しいですよね。

浅野 :

そうですね。ただ、誰が調査してもいいと思うんですよ。調査するに相応しい人であればね。中の人がやったっていいし、外の人がやったっていいし、一緒にやったっていいのですから。重要なのは、やるということと、誰がどのようにやったかを公開するということです。誰が報告書を書いたのか分からない、誰が調査したかも分からないというのは問題です。かつては仕事が増えると学芸員が嫌がっていたのですが、最近は反対はされなくなってきました。そういう時代だと思います。

髙岸 :

研究者個人としてみれば、データベースを構築しても自分の業績として評価されにくいので、論文を書くほうに専念したいと思ってしまうかもしれませんね。

浅野 :

これは美術館に勤めている人だけの問題ではないですが、美術館の所蔵作品に関して、内部の職員が論文を書くまで外部に情報公開をしないというやり方はもはや時代遅れだし、やってはいけないことです。公の作品なのですから、公に公開して、みんなで一緒に論文を書きましょうと。そうするほうがフェアだし、そうなるべきだと思います。それに、きちんとしたデータベースを作るということに対しては、学界も評価すべきだと思います。

髙岸 :

作品評価の公正性、研究者がデータベースを通じて作品情報を共有する必要性、いずれも今後の美術史研究の基盤を再構築していくうえで重要なご指摘だと思います。本日は貴重なお話、ありがとうございました。

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