福田繁雄 ≪5次元のヴィーナス≫
本書は京都大学人文科学研究所が取り組んできた「人文学諸領域の複合的共同研究国際拠点」としての共同研究の一つ、「「見えるもの」や「見えないもの」に関わる東アジアの文物や藝術についての学際的研究」」(2019~2021年度)の成果をとりまとめた論文集である。例えば「「見えない」ものの可視化」は、美術研究における最も普遍的で根源的な検討課題の一つだが、狭義の美術史学のディシプリンのみで究明できる部分がごく限られるテーマでもある。隣接領域と共有可能な研究のプラットフォームが形成されてこそ、議論が大きな実を結ぶことは明白であろう。本書はまさにこうした要請に応えうる特長を備えており、美術・考古・芸能・思想・宗教など多彩な分野を専門とする研究者が、東アジアの「見える」ものや「見えない」ものにまつわる様々な理論や事象を論じている。収載論考は25篇、執筆者の年齢層も各領域の第一人者から気鋭の若手まで幅広く、最新の知見に基づく解釈のモデルが数多く提示されている。試みに本書に示されたキーワードを列挙(編者の一人・外村氏の選定)すると、
天、天意、天命、太極、太極殿、大極殿、太極図、道学、中国医学、五行、正史、災異記録、墓制、中国の神、神坐、霊魂、魂魄、忌日、墓主図像、神仙思想、西王母、東王父、鏡、鏡像、雲岡石窟、敦煌莫高窟、キジル石窟、釈迦仏、毘盧遮那仏(盧舎那仏)、阿弥陀仏、弥勒菩薩、奏楽天人、供養者図像、仏像の起源、立像と坐像、倚坐像、半跏思惟像、二仏並坐像、法界仏像、仏身、舎利荘厳、阿育王塔、仏の姿の表現法、罔両画、来迎図、涅槃図、涅槃会、霊鷲山、法華経、維摩経、涅槃経、浄土三部経、華厳経、十地思想、瞑想、禅定、威神力、相即相入、感応、三宝、玄奘、道宣、古器物、古代音楽器、文人、書斎図、雅集図、体内観、身体観、道家の道、儒家の気、日本の神、神宝、神の姿、幽霊能、夢、幻、・・・
といった具合になる。一見無秩序だが、これに本書を構成する九部に付したタイトル、すなわち①「祭祀・墓葬と「見える」もの「見えない」もの」、②「尊像の誕生」、③「仏菩薩の姿と「時間」「過程」の表象」、④「仏身と世界観:盧舎那仏の形と意味」、⑤「音を「見せる」/姿を「留める」」、⑥「仏菩薩の顕現する場」、⑦「「見えない」ものを「とらえる」:付会と図解」、⑧「諸教交渉と「見える」もの「見えない」もの」、⑨「「見える」「見えない」現象の主体/連鎖するイメージ」を重ね合わせると、儒教・仏教・道教・日本の神祇信仰に関わる抽象的な観念や崇拝対象から、個別具体的なテキストや文物に至るまで、本書の射程の広範さと対象の重要性、そして問題意識の一貫性と内容の体系性が鮮やかに浮かび上がってくるであろう。類書のない書物であり、美術関連諸学のみならず、広く人文学の活性化に寄与することを期待している。
(文・稲本泰生)
著者・編者・監修 | 外村中・稲本泰生編・著 |
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判型 | B5判 |
ページ数 | 746頁 |
定価 | 14,000円+税 |
ISBN | 978-4-585-37012-3 |
発行日 | 2024年3月25日 |
出版社 | 勉誠社 |