公益財団法人 鹿島美術財団

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ミュンヘン中央美術史研究所との連携プログラム

2022年度海外派遣
第2回 ミュンヘン中央美術史研究所フェロー

 鹿島美術財団の海外派遣プログラムを利用して、2023年5−6月にミュンヘンの中央美術史研究所でフェローとして在外研究を行った。研究テーマは、「二十世紀ドイツ語圏における美術史学とイデオロギー――ハンス・ゼードルマイヤにおける中世の受容」であり、滞在期間中は同研究所で発表・討議の機会を持つことができ、有意義なミュンヘン生活を送ることができた。主たる研究成果については、すでに『鹿島美術研究』(年報第40号別冊)で報告文を執筆しているため、詳細はそちらに譲るが、ここでは、旅先でめぐりあわせたある展覧会について簡単な回想記を綴っておきたい。

「モーツァルト広場のモーツァルト像とザルツブルク美術館の外観」(筆者撮影)

「フィッシャー・フォン・エルラッハ展の入り口」(筆者撮影)

 派遣期間中には、ザルツブルク州立資料館に収められているゼードルマイヤの遺稿調査や、ザルツブルク大学レナーテ・プロヒノ・シンケル教授と面会するために、ミュンヘンから電車で二時間ばかりのところに位置するオーストリア・ザルツブルクで一週間あまり滞在することになった。そこで、僥倖となったのが、ザルツブルク美術館で開かれていたフィッシャー・フォン・エルラッハ展に足を運ぶことできたことである。2023年はフィッシャーの没後300年にあたる年であり、それを祝してこのオーストリア・バロックを代表する建築家の回顧展が、ゆかりの深いザルツブルクで開かれていたのである。フィッシャーは、ゼードルマイヤが博士論文の題材に選んだ対象でもあり、1956年に刊行されたゼードルマイヤの『J.B.・フィッシャー・フォン・エルラッハ』は、いまでもこの分野における基礎文献とみなされている。

 さて、今回のフィッシャー展は、アンドレアス・ニーアハウスとペーター・フスティ両氏によって企画され、写真作家ヴェルナー・ファイアージンガーの協力のもと、フィッシャーの建築作品を写した的確かつ印象的な大判の写真プリントが複数展示されていた。フィッシャーの代表的建築である、ザルツブルクの大司教の庇護のもとに作られた聖堂建築や、ハプスブルク家によって注文されたウィーンの宮廷建築が、ファイアージンガーの入念に考え抜かれた写真によって光が当てられた。実物をそのまま展示することのできない建築展は、一般的な絵画展や彫刻展に比べるといっそう工夫が求められる。

展覧会では、フィッシャーの名前を一躍広めることになった版画集『歴史的建築』の空想的イメージが、建築家の活動の幅広さを伝えていた。加えて、フィッシャーがザルツブルクで最初に手掛けた宗教建築である《三位一体教会》の三次元模型も会場の一角に置かれた。この模型は、実は、フィッシャーの生誕300年を期に企画された1956年の展覧会のために作成されたものであるらしい。カタログを読んで、この六十数年前の回顧展を呼びかけた張本人がゼードルマイヤであったと知り、思わぬところで自身の研究との接点を発見することができた。今回の展覧会訪問をきっかけに、フィッシャー建築の奥深さを垣間見ることができ、さしあたりゼードルマイヤのバロック論を足がかりに、ドイツ語圏のバロック芸術への見聞を深めていきたいとの思いを強くした。
(文:二宮 望)

「ザルツブルク州立資料館の外観」(筆者撮影)

「ザルツブルク大学のモダンな校舎
「ウニパーク・ノンタール」棟」(筆者撮影)

研究テーマ 二〇世紀ドイツ語圏における美術史学とイデオロギー
ーハンス・ゼードルマイヤにおける中世の受容ー
期間 2023年5月1日〜6月30日(61日間)
派遣国 ドイツ連邦共和国
報告者 京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士課程後期 二宮 望
報告書 『鹿島美術研究』年報第40号別冊 577~586頁

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