福田繁雄 ≪5次元のヴィーナス≫
『源⽒絵研究の最前線』は、源⽒絵データベース研究会に所属する気鋭の研究者達による25本の論⽂を収録するものである。本書の目的は、源⽒絵データベース研究会のなかで積み上げられた足掛け八年にわたる研究成果を⼀般に公開することにある。絵巻や扇、画帖、屛風など、さまざまな形で残されてきた源氏絵を、美術史のみならず建築史、日本文学などの知見により時代別に再考し、さらにAIやVRなどを駆使した最先端の研究や展示方法に関する最新の成果も収載している。
本書の構成は、第一部「源⽒絵の諸相」、第二部「AIとVR」の二部構成からなる。第一部は4章から成り、第一章の「平安時代」は徳川・五島本「源氏物語絵巻」の修理報告。第二章の「室町時代」では、九州国立博物館蔵「扇⾯画帖」について裏面調査の報告と作中の源⽒絵扇⾯の再検討、ハーバード本「源氏物語画帖」の分析、⽑利本とメトロポリタン本「源氏物語絵巻」の比較分析より、室町期の源氏絵研究の最前線を示した。
第三章の「桃⼭・江⼾時代」では、狩野永徳・光信についての考察、⼟佐派(光則・光起・工房)の分析、宗達派の源⽒絵の論考など七本の論文を収録し、図様の継承と創造の観点から桃⼭・江⼾時代の源氏絵研究の最前線を示した。第四章の「源⽒絵の拡がり」では、鷹狩図の考察、幻の「源氏物語絵巻」の詞書についての検討、源氏絵に描かれた寝殿造の再検討など、流派に捉われない源氏絵の研究を収録する。
第二部の「AIとVR」は3章から成り、情報学の成果を取り⼊れた最新の源⽒絵研究を示すものとなっている。第一章の「デジタル画像」には、ジャパンサーチ活用によるデジタル画像の提供方法、IIIF 活用の成果と課題を収める。第二章の「AI」は稲本万里子氏と情報学の小長谷明彦氏らとの共同研究の成果で、源氏絵の顔画像をAIに覚えさせ深層学習による流派推定をし、幻の「源氏物語絵巻」の絵師推定にも援用した分析、また深層学習モデルによる詞書のくずし字の解読を試みた論を収載している。
第三章の「VR」では、「VR源氏物語図屛風」「VR六条院」など、VRや360度カメラなどによるデジタル展示品の鑑賞の成果をまとめた三本の論文を収載し、AIの第二章とともに異分野融合研究の可能性を示す成果となっている。
以上のように本書は一冊で源⽒絵研究の最新の成果を時代別に理解することができる論集であり、詞書や建築史から⾒た研究など源⽒絵研究の拡がりの可能性も示している。さらにAIやVRなど異分野との融合研究をいち早く源氏絵研究に取り入れて、美術史研究のみならず広く人文学研究の未来についても示唆的な研究成果を収載している点でも大いに評価される。本書の魅力は源⽒絵研究が定型にはまった軌跡を描くのではなく、隣接科学の知を取り込みながら、運動体として様々な可能性を見せて展開していく醍醐味にあろう。
(文・河添房江)
著者・編者・監修 | 稲本万⾥⼦編著 |
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判型 | B5判 |
ページ数 | 488頁 |
定価 | 13,000円+税 |
ISBN | 978-4-585-37016-1 |
発行日 | 2024年10月15日 |
出版社 | 勉誠社 |