公益財団法人 鹿島美術財団

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外国人研究者招致

2024年度
ゴヤからピカソ、そして⻑崎へ 芸術家が⾒た戦争のすがた
グートルン・マウラー(プラド美術館学芸員)

 2025年に開館20周年を迎えた⻑崎県美術館は、被爆80年という節⽬にあたり、「ゴヤからピカソ、そして⻑崎へ 芸術家が⾒た戦争のすがた」展(会期:7月19日~9月7日)を開催しました。画家フランシスコ・デ・ゴヤが対仏独⽴戦争(1808~1814年)を契機に制作した銅版画集〈戦争の惨禍〉の紹介に始まり、スペイン内戦期のパブロ・ピカソらの制作、二度の世界⼤戦の戦禍に取材した⻄欧と⽇本の芸術家の作品群から構成される展覧会です。マドリードのプラド美術館とソフィア王妃芸術センターに加え、国内の数多くの美術館からも貴重な作品を借用し、出品点数は約180点を数えました。さらに展覧会内容を敷衍する目的で7月19日に記念シンポジウムも開催。鹿島美術財団のご援助に基づき、プラド美術館で長らくゴヤに関する調査研究に取り組んできたグートルン・マウラー氏を招聘し、基調講演を行って頂きました。加えて7月21日には上智大学ヨーロッパ研究所、スペイン・ラテンアメリカ美術史研究会、当館の共催により、同学でゴヤの肖像画制作に焦点を当てた講演を実施頂いた次第です。

展示会場風景

図1:展示会場風景

マウラー氏 基調講演風景(長崎県美術館)

図2:マウラー氏 基調講演風景(長崎県美術館)

 今回の来日を振り返り、同氏から御礼の言葉とともに次の文面を頂戴しましたので、ここに紹介いたします(〔 〕内筆者補遺)。

 〔今回の日本滞在では、〕まず長崎県美術館においてプラド美術館を代表してフランシスコ・デ・ゴヤの作品に関する講演会を行い、その後に上智大学でも同じ画家の肖像画制作に焦点を当てた講演を実施しました。いずれも通訳付きで、数多くの美術愛好家から専門家まで幅広い人々にご参加頂きました。ゴヤとその作品、彼にまつわる調査研究に強い関心が持たれていることが様々な質疑応答を通して明らかになり、時代の証人としての画家ゴヤ像、彼の作品の近代性を定義する諸基準、彼の作品群が現代に放つアクチュアリティやその影響力、あるいは作品帰属の問題などが浮き彫りになったと思います。これらのシンポジウムと講演は、ゴヤが生きた時代を研究対象とする美術史家、美術史あるいはゴヤの複雑な画業や生涯について学んでいる学生たちに刺激を与える役割を果たしました。さらには、この画家の先見性やアクチュアリティを美術史的、政治的そして社会的な諸側面において紹介するという点で、今回の展示を補完し、次なる展示の構想へとつなげる一助となったのではないでしょうか。

 今回の展覧会は、長崎県美術館の開館20周年及び長崎の被爆80年を記念して開催されました。被爆の歴史については長崎原爆資料館で卓越した紹介がなされ、町の様々な場所にもその記憶が残っています。美術館での展示は、対仏独立戦争の暴力を描いたイメージの数々、ピカソの《ゲルニカ》の複製陶板、日本における原爆投下がもたらした悲劇的結末〔に取材した作品〕、さらには被爆という出来事に向き合った現代美術作品による考察を通じて、心を揺さぶる対話の場となっていました。そして、ゴヤの〈戦争の惨禍〉を構成するイメージの数々が今日にも多大な衝撃を残していることが示されている一方、展覧会それ自体の影響力に関する最も雄弁な証言は、展示室内を経巡る人々が胸を打たれ、憂慮の念を抱いたことに起因する沈黙そのものでした。

 マウラー氏の講演は、ゴヤという画家が、戦禍と芸術家が取り結ぶ関係性を考察する上で重要な指標であることを証するのみならず、この画家に対する今後の研究の可能性をも示唆する貴重な機会となりました。限られた招聘期間のなかで2度の講演を実施頂いた同氏に謝意を表しますとともに、長崎県美術館でのシンポジウムの開催にあたり多大なるご協力を賜った大髙保二郎氏(早稲田大学名誉教授)、木下亮氏(昭和女子大学特任教授)、松田健児氏(慶應義塾大学教授)、久米順子氏(東京外国語大学准教授)、さらには本招聘に関してご助力を頂いた松原典子氏(上智大学教授)に深く御礼を申し上げます。

(文責:長崎県美術館学芸員 稲葉友汰)

助成者 小坂智子(長崎県美術館館長)
招致研究者 グートルン・マウラー(Gudrun Maurer、プラド美術館学芸員)
招致目的 ゴヤからピカソ、そして⻑崎へ 芸術家が⾒た戦争のすがた
期間 2025年7月10日~7月22日
報告書 『鹿島美術研究』年報第43号別冊(掲載予定)

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