福田繁雄 ≪5次元のヴィーナス≫
外国人研究者招致
日本における講演と滞在について
私の日本滞在は、鹿島美術財団からのご援助、そして吉田朋子、小林亜起子両氏の心遣いによって素晴らしいものとなりました。京都では美術史学会主催の講演会、東京では日仏美術学会主催の講演会を行いました。
京都での講演会では、美術史全般に関わる問題を扱いました。「西洋美術の評価と分析を支える前提は何か」と題し、美術館で見かけるキャプションを構成する三要素、つまり、作者名、作品タイトル、制作年を検討しました。ここで示したことは、これらの要素は自明なものではなく、方法論的な前提に依拠しているものであることです。
美術史学会主催 講演会(京都市立芸術大学)
東京での講演会は自分自身の専門である18世紀フランス美術をテーマとしました。「18世紀フランスの装飾を作り上げた芸術家たち」と題し、絵画と装飾の恣意的な分断について考察しました。こちらの講演では、国立西洋美術館に所蔵されている作品を取り上げることができたことを強調したいと思います。これらの講演会では、逐次通訳という形式に戸惑いはしましたが、有能な通訳の方々に大変お世話になり、満足行くものとなりました。講演会後にいただいた質問や、懇親会での交流を通じて、日本の研究者たちが西洋美術史に対して持っている熱意、関心の深さも知ることができました。
全てにおいて、日本での滞在は、大変興味深く、勉強になるものでした。初めての滞在でしたが、京都と奈良では最上の経験をすることができました。私は、西洋美術、ヨーロッパの造形的・宗教的伝統の専門家です。ヨーロッパのモデルの影響を受けずに発展した文明の造形、生活様式、精神性に出会ったことで、自分自身に親しい(西洋の)芸術作品を問い直すことになりました。この点について、京都国立博物館での雪舟展は、特に刺激的でした。ヨーロッパの15世紀に見られる風景画の変化を、同時期の日本と比較することで、まったく異なる文化的文脈にあった西洋美術の特色をよりよく理解することができました。
もちろん、様々な寺社仏閣もこれに劣らず興味深いものでした。西洋と同様に、礼拝を目的として構想されたものでありながら、まったく異なることに感銘を受けました。これらの宗教施設は、西洋、特にフランスよりもずっと、国家としての一体性の基礎になっているように思われました。京都と奈良の有名な寺社仏閣で多くの修学旅行生を見かけたこと、そして生徒たちが、宗教施設に相応しいようにふるまっていたことも印象的でした。もちろん、彼らも、敷地の端で写真を撮ってもいましたが。フランスのように非キリスト教化した国では、カトリック教育という意味でもなければ教会を訪れることは珍しく、もし訪れても建築という観点からなのです。
日仏美術学会主催 講演会(日仏会館)
春に日本を訪れたことができたことも幸運でした。庭の花々を楽しみ、自然の構造を知ることができました。2週間後には、英国の大規模な庭園を訪れて、日本の自然と比較することもできました。また、現代の東京の巨大さから、日本文化の別の側面を知ることもできました。
この滞在は実に楽しいものでありましたが、同時に自分の考察を非常に刺激するものとなりました。2週間で日本の芸術と文化を理解できたなどとは思いません。しかし、今回の経験は研究対象である自分自身の文化に対して距離を取り、より精密に分析することを可能にしてくれました。
| 助成者 | 吉田朋子(同志社大学文学部教授) |
|---|---|
| 招致研究者 | クリスティアン・ミシェル(Christian Michel、ローザンヌ大学名誉教授) |
| 招致目的 | 18世紀フランス美術研究 |
| 期間 | 2024年4月16日~4月30日 |
| 報告書 | 『鹿島美術研究』年報第41号別冊 |